スタジオミュージシャンのおシゴト

 一般の方から想像しにくい世界っていろいろあるけど、「スタジオミュージシャン」もそのうちのひとつじゃないかな?この20年、ご他聞に漏れず、このギョーカイもずいぶんと構造改革(?)があって、いわゆる「フリーのスタジオミュージシャン」は、ずいぶん居場所を失った。以前は「インペク屋さん」と呼ばれる、ミュージシャンをブッキングする事務所からおシゴトを依頼されることがほとんどだったけど、生録音の総量の減少と、従来の形態にはそぐわないスタイルが増えたことで、アレンジャーが懇意にしているプレイヤーに直接発注することが多くなったんだよね。予算減少のせいもあるけど。

 実際の録音現場に至るまではですねえ、インペク屋またはアレンジャーから、「○月○日の何時、空いてる?」というデンワを受けるところから始まる。そこで「すみませんその日はNGです」だと、「あ、そう。じゃまたよろしくね」となってしまうのがフリーランスの悲しいところ。要するにダレでもいいんだよね。(もちろん実績があるなかからのセレクトではありますが)諸センパイ方見てても、トシいくにつれ「指名入札」のカタチで仕事したいと思うようになる。自らのアイデンティティの確認のためにも。まあ「職人芸的」な世界だともいえるのですが…

 指定された○月○日、○○○スタジオ○○STには、遅くても30分まえには着くように出かけます。仕事始めた当初、センパイ方から一番にうるさく言われたのがこれ。「スタジオミュージシャンは時間厳守」 ニホンは録音ギョーカイもハイテク=高コストだから、スタジオ使用料は時間あたり、大きいところだと何10万円にもなるわけ。時間内終了は絶対命題なのです。
 スタジオのメインルームの入り口には、その日の録音の配置図が掲示されてる。それを確認して、「FLUTE」と書かれているブースに入り、楽器のケースを開ける。編成がデカくてブースが足りなかったりすると、フルートってそんなに音でかくないから、メインルームへ通じる二重扉のあいだに入れられちゃったりする。建替えるまえの昔のキ○グレコードのスタジオなんて狭くて、「ここも使うんかい!」みたいなところまでブ−スとして使ってたから、本番中にそば屋の出前持ちが扉開けちゃったことがあったっけ… 木管のフルートを使うようになってから、それまでよりも早めにスタジオ入りするようになった。木管の楽器はその場の気温・湿度に慣らして、しばし吹きこまないと鳴ってこないんだ。とくにボクのはおじいちゃんだから、寝起き悪いからね。ニンゲンの年寄りとは違って。

 そのころ到着する譜面をチェックしつつ、ウォームアップしてると、アシスタントがマイク位置を合わせにくる。そういえば最近はマイクの感度がよくなったのか、以前ほどオンマイク(マイクが近い)ではなくなったから、キィノイズとか、ブレスノイズにさほど神経質にならなくてもよくなったなぁ。昔は少しでもキィノイズがするようになったら楽器屋さんで調整してもらわなければならなかったから、しょっちゅう通う必要がありました。そのせいで、ボクのガタガタヘインズとかは使いづらく、録音にはキィワークの出来がいい○○マツDNを持っていくことが多かったですね。

 で、時間になると、ディレクターの「おはようございます。それでは一度お願いします」の声がイヤホンから流れて、ドンカマが鳴り出したら間発入れず、ドラムのプレイヤーがカウントを始める。たまに生徒とかを見学に連れてくと、みんなオドロクのはこの進行の早さ。このペースについていけないとスタジオミュージシャンは務まらない。長年やってるとみんな、性格まで短気になってくる。常に時間に追われてるから、当然早メシ早○○芸のうち。カラダによくないですねー。指揮台の上では、たいていアレンジャーが指揮します。ブースから直接見通せない場合はモニターがありますが、あんまりマジメに見ててはいけません(?)。でも最後の音の切りは指揮見てないと。コンマスの弓見てないと合わないことも多いけど。
 一度演奏した後は、アレンジャーはコントロール・ルームに戻って、ディレクターやプロデューサー、立ち会ってる歌手本人と最終確認。この段階ではもう大変更はないけど、テンポが多少変わったり、アーテュキレイションやオクターブの変更はある。だいたいポピュラー奏法では、アーテュキレイションはプレイヤーの責任だから、音楽のスタイルによってのあるべきアーテュキレイションを知っていることが必要だし、イヤホン越しに聴こえる他の楽器とのアンサンブルを聴いて、自分で決めなければならないこともしょっちゅうある。音程にしても弦のヒトは音楽的音程にうるさいからね。よく聴き合わせないとニラまれますから。おーこわ。
 この後はテスト録音→本番。テストは必ずプレイバックされるから、ブースから出て、メインルームのラージモニターで、バランスや音程感を確認します。マイクを通した音は生とは微妙に違って聴こえるし、アンサンブル上、倍音の都合で音程感が違って聴こえることもあるから。
 それらを修正のうえ、もう一度、本番の演奏をして、事故がなければその曲は終了。都合三回しかその譜面を吹いてない。だから次の日になったら、曲名まですっかり忘れてる。なので街中のどこぞからBGMで流れてくるのを、「ノリ悪いフルートだなぁーだれだべ」なんて思ってると、その数秒後に「オレじゃん」てなることもある(-_-メ)


 この後に、ミックスダウンを経て、歌手が歌を「カブせ」るわけですが、演歌だとオケ録りの段階でもう各楽器のバランス取っちゃってるから、スグにウタ録りになることもよくあります。いつかさ、オケ録り終わって楽器片付けてたら、ヨボヨボのおばあちゃんが入ってきて、「ちょっと発声練習いたします…うぉーあーぅおえーーーー○×△〆」って、ニワトリが絞め殺されるような声で歌いだした。ボクはびっくりして、そばにいたインペクの爺さんに「だれ?あの婆さん?」と訊いたら、「おまえ二葉百合子大先生を知らんのかぁ!!!」と、えらいケンマクで怒られた。だって若いんだもーん。

   
























































m(_ _)m